軸対称大気における子午面循環の数値シミュレーションによるハドレー循環の解析


地球惑星物理学科 2026年度特別演習 (発表:2026年7月22日)

発表者:三田村彰大
担当教員:佐藤正樹先生, 大野知紀先生

参考論文:
Held, I. M., & Hou, A. Y. (1980).
Nonlinear axially symmetric circulations in a nearly inviscid atmosphere.
Journal of the Atmospheric Sciences, 37(3), 515–533.

問題設定

子午面における大気の運動を数値的にシミュレーションする。

子午面大気の模式図
図:子午面の概略図

支配方程式系

軸対称大気における乾燥・ブシネスク流体のプリミティブ方程式:

西

→この方程式系を離散化し、計算機を用いて数値的に大気を時間発展させる。

※微分方程式の離散化

微分方程式を離散化することで 後の大気の状態を計算することができる。

ステップずつ大気の状態を更新していくことで大気の時間発展を得ることができる。

数値シミュレーション結果

※流線関数の時間発展の様子(粘性が大きい場合):

数値シミュレーション結果

※東西風の時間発展の様子(粘性が大きい場合):

数値シミュレーション結果

  • 定常状態でハドレー循環と思しき循環が現れる
  • ハドレー循環の極側の上空に亜熱帯ジェットが現れている
子午面大気の模式図

数値シミュレーション結果


  • ハドレー循環及び亜熱帯ジェットを再現している
  • ハドレー循環の広がり・亜熱帯ジェットの位置は論文の理論値と一致しない

→ 非粘性極限で論文と一致する?

大気大循環の概念図
図:大気大循環の概念図(出典:気象庁)

非粘性極限

粘性を小さくしていくと:

  • ハドレー循環の幅が論文のモデル( )に近づく
  • ハドレー循環の極側に逆向きの循環が現れ始める(フェレル循環
  • ※ただし が小さすぎると定常状態を得ることができない。
非粘性極限の計算結果
図:粘性を小さくした場合の計算結果

非粘性極限

※流線関数の時間発展の様子(粘性が小さすぎる場合):

非粘性極限

粘性を小さくしていくと物理量が論文の非粘性モデルの予想値に近づく。

非粘性極限の計算結果
図:粘性を小さくした場合の物理量の変化

非粘性極限

しかし、完全には収束しない(ズレが残る)
→ 論文のモデルはあくまで近似的なモデルに過ぎない

非粘性極限の計算結果

まとめ

  • Held and Hou (1980) は、非粘性極限においてプリミティブ方程式を解くことでハドレー循環を解析的に分析した。
  • 粘性がある状態で数値モデルを作り、その後 に近づけることで、非粘性極限における数値解を分析した。
  • 非粘性極限で数値解は Held and Hou のモデルに近づくが、小さなズレは残り続ける。

→ Held and Hou (1980) の解析モデルはハドレー循環の性質をよく捉えているが、完全ではない。

おまけ

※放射平衡場を季節変動させた場合(流線関数):

おまけ

※放射平衡場を季節変動させた場合(東西風):






※詳細解説スライド

支配方程式系(再)

軸対称大気における乾燥・ブシネスク流体のプリミティブ方程式:

西

※ ただし子午面における緯度・高度を で表し、大気の東向き(子午面を貫く向き)の流速を 、北向きの流速を 、鉛直上向きの流速を として、 とする。また、 はそれぞれ温位・ポテンシャルである。また、コリオリパラメタ は  と計算される。

支配方程式系(再)

放射平衡温位 及び境界条件は次で与える。

※ 温位は式中で必ず , の形で現れるので、正規化して として考えることにする。

※また、パラメタの値は Held and Hou (1980) に従って定める。

予報変数と診断変数

  • は式が の形で書き表され、時間積分により次のステップでの値が求まる(予報変数
  • は時間積分では求まらず、各時刻において方程式を解くことで求めなければならない(診断変数
表:方程式系まとめ

時間方向の離散化スキーム

 予報変数を 、パラメタを として表すことにする。また予報変数に関する理論式をまとめて

と表すことにする。その上で、今回は次の松野スキームによる時間発展を考える。

時間方向の離散化スキーム

 よって、松野スキームのそれぞれのステップにおいて診断変数 を計算する必要がある。

図:松野スキームの計算の流れ。予報変数 が求まっていると時、まず から診断変数 を計算し、 を用いて を計算する。その後、 から診断変数 を計算し、 を用いて を計算する。

空間方向の離散化スキーム

 子午面をセルに分割し、下右図のようなスタッガードグリッド状に変数を配置した上で、差分により空間微分を評価する。(ただし計算用領域の外側にダミーセルを用意する。)

図:子午面のセル分割(左)と、各セルにおける変数の配置(右)

診断変数の計算

  • について:
    • 地表から積分していくことで計算できる。
    • 地表での境界条件 より であり、連続の式 から を求めれば、

診断変数の計算

  • について:
    • を計算すれば十分。
    • 大気上端での境界条件 が満たされるよう を決定する。

→ 満たして欲しい式は

であり、第 ステップにおいて が満たされている状況で ステップにおいても を満たすという条件を考えると、

診断変数の計算


※ ただし途中で 方程式の圧力勾配項を除いた右辺 を以下のように定義している。

診断変数の計算

よって積分が になるという条件から以下が従う

特に今、静水圧平衡を用いれば と計算できるので、

となる。

微分演算子 の外に出せることを使った。(より正確には、 を積分の外に出すことで という条件が現れ、ここから という条件が出るが、極で発散しないという条件を考えると定数は でなければならず、結局 が導かれる。)

診断変数の計算

よって(2)式を(1)式に代入し

となり、(3)式を(2)式に代入し直せば

として の計算式を得ることができる。( の計算についてもこの式を流用することにする。)


※ ただし である。

モデルの設計と開発

  • まず方程式を手元で離散化し、アルゴリズムの設計図を書いてからコーディングを行う。
  • 計算式や設計図をTeX等を用いて書き下すことでAIを用いたデバッグを行うことができる。
→ コードを書くまでに手間はかかるが、デバッグは一瞬で終わる!




(※そもそもAIにコードを書かせればいいという話ではあるが…)

モデルの設計と開発

モデルの設計と開発

モデルの設計と開発

数値シミュレーション結果

数値シミュレーション結果

数値シミュレーション結果

数値シミュレーション結果

数値シミュレーション結果

数値シミュレーション結果

数値シミュレーション結果

数値シミュレーション結果

結果の解釈:大気上端での東西風


  • 粘性を小さくしていくと Held Hou モデルの非粘性極限に近づく
  • しかし、極大の位置に 程度のずれが残り続ける(論文で述べられている通り)
  • 論文の図にはない の結果をプロットしたところ、ずれがより明確になった。

図: での東西風

結果の解釈:角運動量フラックス


  • 赤道での角運動量 と大気の角運動量 の差 をプロット
  • ※ 傾きが平坦なほど角運動量を保存している
  • 粘性を小さくすると で角運動量の保存性はよくなるが、 より赤道側では角運動量を失っている。

で上昇してくる空気塊との合流によって保存性が悪くなっている

図: at

結果の解釈:温位フラックス



  • 粘性を小さくしていくと Held Hou モデルの非粘性極限に近づく
  • しかし(やはり)、完全に収束はせずズレが残り続ける

図: 温位の南北(輸送)フラックス

結果の解釈:地表での東西風

  • 論文と結果が微妙に異なる。(右図は論文には記載されてない についても地表東西風の値をプロットしていることに注意。その上で、論文に記載されてる についてもグラフの形状が一致しない。)
  • について小角近似を用いず、厳密解を数値的に求めてプロットしているがそれでもズレる。(なんでだろう)
  • (論文では省略されている)において、ギザギザが現れている。(数値的なもの?)

図: での東西風  

結果の解釈:渦位と不安定性

  • ポテンシャル渦位:

  • 小でポテンシャル渦位が負になる領域が現れ始め、 小での計算が安定しない原因が見て取れる。
  • の地表近傍で、論文には記載されていない渦位負の領域が現れている。
  • → 逆循環が現れる位置とおおよそ対応している?
  • → 高粘性でも同様の現象が見られる(まだ理由はわかっていない…)

図: ポテンシャル渦位 (青が負、赤が となっている領域)

結果の解釈:渦位と不安定性

図: の場合

図: の場合

まとめ


  • Held and Hou (1980) の再現実験を行った
  • Held Hou モデルが非粘性極限として定性的な性質を(小さなずれを除いて)とらえていることを確認した
  • 簡易的な気候モデルを組み上げる経験ができた
  • 楽しかった╰(°▽°)╯

季節変動を考えた場合

温位場 は放射平衡場 からのズレを解消するようなニュートン冷却で強制される。

放射平衡温位 は赤道で最大、高緯度ほど低くなっている。(赤道が放射加熱の中心となっている。)

→ しかし実際は放射加熱中心が季節とともに変化するはず!

季節変動を考えた場合

Lindzen and Hou (1988) に従い放射平衡場を季節変動させる。

  • Held and Hou (1980):

  • Lindzen and Hou (1988):

→ 放射加熱中心 を季節に応じて時間変動させる。

季節変動を考えた場合

放射加熱中心を正弦波で振動させる。(夏至で最も北半球寄りになるようにする。)

また、シミュレーションのパラメタは Lindzen and Hou (1988) に従う。

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

※流線関数の時間発展の様子:

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

※東西風の時間発展の様子:

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

※南北風の時間発展の様子:

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

※温位場の時間発展の様子:

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

  • 一定時間経つと定常的な振動が得られる
  • 夏至(冬至)では南半球(北半球)のハドレーセルが逆側の半球に張り出し、逆側の半球のハドレーセルは弱くなる
非粘性極限の計算結果
図:夏至(放射加熱中心が最も北半球寄りになる日)における流線関数の様子

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

  • 実大気においても同様の循環の張り出しが見られる。
非粘性極限の計算結果
図:実大気における6月の子午面循環の様子(Oort and Rasmusson, 1970 より)図は流線関数を示しており、灰色の部分が北半球におけるハドレー循環の向きに一致する。(横軸が南緯10度から始まっていることに注意。)

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

  • 春分(秋分)では北半球(南半球)に強い逆循環が現れる
  • 放射平衡場を季節変動させなかった場合に比べて明瞭にフェレル循環が現れていると考えられる。
非粘性極限の計算結果
図:春分(放射加熱中心が赤道に一致する日)近傍における流線関数の様子

数値シミュレーション結果(季節変動あり)

  • 亜熱帯ジェットの位置はあまり変動しないが、亜熱帯ジェットの強さは季節変動が強い
  • 北半球で冬に最大となる。→ 実大気においても同様の現象が見られる。
実大気における亜熱帯ジェットの季節変動。https://www.atmos.rcast.u-tokyo.ac.jp/shion/u200_clim.htmより。

まとめ(季節変動を考えた場合)


  • 放射加熱場に季節変動を入れると、フェレル循環がより明瞭になったり、逆側の半球への循環の張り出しや亜熱帯ジェットの強さの季節変動が見られるようになるなど、実大気の再現度が向上する
  • ただし Held Hou モデルのように物理的な解釈を考えることは現段階では自分ではできていない。

参考文献

  1. Held, I. M., & Hou, A. Y. (1980).
    Nonlinear axially symmetric circulations in a nearly inviscid atmosphere.
    Journal of the Atmospheric Sciences, 37(3), 515–533.
    DOI: 10.1175/1520-0469(1980)037<0515:NASCIA>2.0.CO;2

  2. Lindzen, R. S., & Hou, A. Y. (1988).
    Hadley circulations for zonally averaged heating centered off the equator.
    Journal of the Atmospheric Sciences, 45(17), 2416–2427.
    DOI: 10.1175/1520-0469(1988)045<2416:HCFZAH>2.0.CO;2

  3. Oort, A. H., & Rasmusson, E. M. (1970).
    On the annual variation of the monthly mean meridional circulation.
    Monthly Weather Review, 98(6), 423–442.
    DOI: 10.1175/1520-0493(1970)098<0423:OTAVOT>2.3.CO;2

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